東京外国語大学言語モジュール

4.1.5.1. 音の弁別、発音方法
音韻論者のアンドレ・マルティネが1940年代に述べているように、標準フランス語には、もはや母音の[a]と[ɑ]で区別される単語はほとんどありません。また多くは [a] の音色をもつため、これが標準フランス語の発音と考えることができます。ただし、今でも[a]と[ɑ]の間で揺れている単語が少なくありません。
/a/
[œ]よりもさらに口を広く開けます。日本語のアに近い音です。
/ɑ/
[ɑ] は舌の後部を持ち上げて発音します。
[参考]
[a] と [ɑ]の区別は20世紀初頭では安定していたことが知られています。とくにパリのフランス語では、[a]は対立を誇張するかのように、広い母音[æ] として実現されました。ところが1970年代になると、この2つの母音を区別する話し手は、すでにフランス人の半数以下になっていたと言います。しかし今日でも、-âtre や -ois の接尾辞では、[ɑ]が聞かれます。たとえばbourgeois [burʒwa] あるいは [buʒwɑ] 「ブルジョワ」、opiniâtre [ɔpinjɑtʁ] あるいは [ɔpinjatʁ] 「しつこい」などです。