東京外国語大学言語モジュール TUFS Language Modules

Malaysian English

マレーシア英語

約3,270万人の人口を有するマレーシアは、マレー系が69.6%、中華系が22.6%、インド系が6.8%から成る連邦国家です(マレーシア統計局、2020年推計)。1963年にイギリスから独立してマレーシア連邦として成立したとき、マレーシア政府は憲法第152条および国語法により、国語としてマレー語を制定し、英語にも公用語としての地位を与えました。その後、1970年にマレー系優遇政策を採択し、マレー語のみを「国語」として定め、それを他の国で話されているマレー語と区別し、多民族国家であるマレーシアのすべての国民のことばとして位置付けるために「マレーシア語」という呼び方に変えました。(なお、本モジュールでは「マレー語」と呼ぶことにします。)そして、1970年代から1980年代にかけて、英語が支配的だった学校教育の言語を段階的にマレー語に移行させました。このため、マレーシア人の英語力の低下が問題視されるようになり、近年では国際的競争力の向上を目指し、教育現場における英語力強化を推進しています。

多民族国家マレーシアには130以上もの土着語があり、従来、多数派のマレー系はマレー語、中華系は広東語、福建語、客家語などの中国南部方言、インド系はタミール語などのインド南部の言語を母語としていますが、イギリス領だった歴史が長かったことから英語を第一言語(日常生活で最もよく話す言語)とするマレーシア人もいます。国民の共通語としては国語とされるマレー語が優勢ですが、英語は特にビジネスや高等教育の専門分野では共通語として広く使われています。

マレーシア人が話す英語は、他のアジア英語と同様、学歴差、母語が何語であるか(地域差)、欧米の英語との接触の度合いといった要因によって左右され、習熟度の個人差が大きいといえます。マレーシアはシンガポールと地理的に隣接し、両国はシンガポールが1965年に独立するまでは同じマラヤ連邦に属していたことから、マレーシア英語とシンガポール英語には多くの共通の特徴があります。

語彙に関しては、福建語などの中国語南部方言を語源とするlah、ah、lorといった間投詞を文末に入れる点が特徴として挙げられます。また、マレー語起源のkenaは「余儀なくされる」という意味でよく使われます(会話8と16など)。語法も特有のものが多くあり、とりわけ“Can”の使い方は独特で、"Can you do that?"の意味で“Can or not?"と言い、それに対する肯定的な答えは一言“Can.”で済ませます(会話5、6、11など)。こうした語彙や語法の特徴はシンガポール英語と共通しています。
(「シンガポール英語の語彙と語法」モジュールはこちら

しかし、本会話モジュールでマレーシア英語とシンガポール英語を比較する限り、語彙に関しては、マレーシア英語の方がマレー語由来の語彙を多く使用しています。例えば、マレー語の"cuba"(会話5と37)は"try"、"sui"(会話6)は"nice"、"kak (kakak)"(会話8と19)は"older sister"の意味で年上の女性を「姉さん」と親しみをこめて呼ぶ際の呼称、"memang"(会話15など)はマレー語で"of course"の意味で使われています。これらの例はほんの一部で、全40会話を通して多くのマレー由来の語が使われています。

マレーシア英語の発音は、標準イギリス英語のようにcarやcartといった語で母音のあとの/r/を発音しない非R音性的な(non-rhoticあるいはr-less) 英語を規範としています。学歴と社会階層が高いマレーシア人は英語の習熟度が高く、イギリス英語を規範とする標準マレーシア英語と口語体マレーシア英語(いわゆる「マングリッシュ(Manglish)」)を場面に応じて使い分け、かなり流暢に英語を話しますが、そうではないマレーシア人は土着語の影響を受けた発音で英語を話します。マレーシア英語に特有な発音は、ある程度以下のように一般化できます。

  • (1)non-rhoticな発音が規範とされてきましたが、現在ではrhoticとnon-rhoticとの間の揺れがみられます。つまり、一人の人間がcarやcartといった語で母音のあとの/r/を発音したり、しなかったりします。インターナショナル・スクールか私立高校を卒業して大学に進学した高学歴の若年層にこの特徴が顕著です。例えば、会話1に登場する女性Aは特に揺れが激しく、会話1の“work”と“for”は/r/を発音していますが、“together”の/r/は発音していません。
  • (2)イギリス英語・アメリカ英語の母音とは異なる母音で発音されることがあります。“busy”の第一音節や“kit”の母音のように、[ɪ]で発音される母音が[i]と発音され、“foot”や“good”の母音のように、[ʊ]で発音される母音が[u]と発音されます。例えば、会話1に出てくる“busy”と“cook”はそのように発音されています。
  • (3)長母音が短母音化する傾向があります。例えば、“park”が[pak]、“born”が[bɔn]、“move”が[muv]と発音されます。モジュールでは会話4の“least”、会話10の“food”、会話39の“beach”などが短い母音で発音されています。
  • (4)短母音が長母音化することもあります。例えば、会話19の“bit”や会話20の“mixed”の母音は長めに[i:]と発音され、会話1の"cook"、会話20の“good”の母音も長めに[u:]と発音されています。
  • (5)二重母音が単母音化する傾向があります。特に“no”や“slow”など/əu/を持つ語、“mail”など/eɪ/をもつ語に特徴的です。例えば、会話2や3の"know"や会話4の“so”、会話5の“great”と“wait”、会話12の“same”と“late”などの母音も単母音で発音されています。
  • (6)子音連続では子音が脱落する傾向があります(子音クラスターの回避の発音)。語末では、例えば“scold”の/d/(会話12)、“helped”の/t/(会話15)が発音されていません。子音が三つ続く場合で二つの子音が脱落する例としては“asked”の/k/と/t/の脱落(会話15)がみられます。語末以外では、例えば“stroke”の/t/の脱落(会話34)がみられます。
  • (7)"th"の発音が有声/無声問わず、摩擦音ではなく歯茎破裂音[t]と[d]で発音されます。例えば、会話3の"thanks"や会話4の“thing”の"th"は[t]で、会話14の"that"の"th"は[d]で発音されています。
  • (8)/z/は無声歯茎摩擦音[s]で発音されることがあります。例えば、会話26の"plans"の"s"は無声化し、「プランス」のように聞こえます。
  • (9)語末の閉鎖音が声門閉鎖音になることもあります。これは驚いて「あっ!」と言った時の語末で、会話4の“but”、会話19の“get”、会話34の“stroke”、会話37の“report”などの語末にみられます。
  • (10)語アクセント(強勢)がアメリカ英語やイギリス英語と異なる音節に置かれることがあります。例えば、会話4の“already”と“surely”、会話6の“dinner”などは最後の音節に強勢が置かれています。会話4 の“weekend”のように両方の音節に強勢が置かれることもあります。
  • (11)音節が時間的に等間隔に現れるリズムで発話されます。本モジュールに登場する男性の話し方に特徴的です。(母語話者の英語は強勢が置かれる間隔をリズムの単位とします)。

4名のマレーシア人出演者たちは全員高学歴のため、かなり聞きやすいマレーシア英語を話します。会話1の女性Aはマレー系、女性Bはインド系、会話2の女性Bはインド系、男性は中華系です。マレー系の女性はマレー語、インド系の女性たちは英語、中華系の男性は中国語を第一言語としています。

「1.挨拶する」から「20.人を紹介する」は、マレーシア特有の語彙や語法を多く含む会話です。これに対して「21.感謝する」以下の会話は、基本的には他の英語会話モジュールと同じスクリプトで、部分的に語彙や表現をマレーシア英語のものに変えています。

「教室用」ページでは4つの画面パターンを用意しました。

パターン1: それぞれの台詞を聞いて覚えるのに便利です。
パターン2: 台詞を見ながら聞いて書きとるのに便利です。
パターン3: 会話全体を聞いて覚えるのに便利です。
パターン4: 役割練習などを行うのに便利です。
担当する方は画面を自由に組み合わせて授業を行うことができます。

上のメニューから項目を選んでください。

このページは科学研究費助成事業18H00695『多様な英語への対応力を育成するウェブ教材を活用した教育手法の研究』 (研究代表者:矢頭典枝(神田外語大学),研究分担者:川口裕司(東京外国語大学),斎藤弘子(東京外国語大学),吉冨朝子(東京外国語大学),梅野毅(東京外国語大学),関屋康(神田外語大学),小中原麻友(神田外語大学))による研究の一環として公開しています。


海外協力者:Stefanie Pillai教授(マラヤ大学)
研究協力者:Janice Hervinder Kaur (マラヤ大学)、木村公彦(神田外語大学)、黒岩健人
出演者:Stefanie Pillai、Puteri Amirah Shafiqah、Lee Han、Kishana Pillai