東京外国語大学言語モジュール

Welsh English

ウェールズ英語

1. はじめに

ウェールズは、イングランドの西部に位置する地域で、地理的な近さから、イングランドの影響を強く受けてきました。しかし、歴史的にはスコットランド、アイルランドと同様に、ケルト系の人々が多く住んでいる地域で、19世紀頃まではケルト系の言語であるウェールズ語が母語として広く使用されていました。その後、教育現場で英語を使用することが義務化されたことなどの影響で、英語が急速に広まり、現在では大部分の人は英語を母語として話し、ウェールズ語を母語とする人は減少傾向にあります。しかし、現在はウェールズ語の復興運動も非常に盛んに行われており、義務教育では必修科目に指定されているほか、すべての授業をウェールズ語で行う学校や、英語とウェールズ語のバイリンガル学校もあります。また、公用語にも指定されているため、公的なものは英語とウェールズ語の2言語で表記されます。そのため、道路標識や看板など、街のいたるところでウェールズ語を目にする機会があります。夏にはNational Eisteddfodという、ウェールズの芸術や言語、文化の祭典が1週間にわたって催されます。
 先に述べたように、英語が広まったのが比較的最近のため、ウェールズ英語ではウェールズ語の影響と考えられる特徴が多くみられます。以下では、発音と語彙にわけて、本英語モジュールで観察されるウェールズ英語の主な特徴を紹介します。

2. 発音

ウェールズで標準とされる英語の発音は、イングランドの標準発音と同一のものですが、ウェールズで一般的に話されている英語には、ウェールズ語の影響と考えられている特徴が多くみられます。母音や子音の特徴に加えて、プロソディーにもウェールズ語の影響は表れていて、イングランドでは、「ウェールズ人は歌うように話す」と言われることもあるそうです。個人差や地域差も大きく、このモジュールでは、女性は比較的イングランドの標準的な発音に近く、男性二人の発話で以下に挙げたウェールズ英語らしい特徴が見られます。

  • (1) 全ての/l/が明るい/l/で発音される。(cf. 標準的な発音では、子音の前・語末では暗い/l/になるため「ウ/オ」のような音色を伴う。) 動画26の“all week”など。
  • (2) /r/の発音は、標準的なイギリス・アメリカ発音とはちがって、日本語のラ行の発音と同じたたき音で発音される。 動画21の女性・男性の“all right”など。
  • (3) NURSE /ə:/やNEAR /ɪə/ が、[œ:](唇を丸めた「エ」の音)で発音される。
  • (4) 二重母音の第二要素(/eɪ/のɪの部分など)が、強く、長く発音される。動画23の男性 “How was your day?”など。
  • (5) 短母音・長母音が極めて短く発音されたり、長く発音されることがある。(短くなる場合、後ろの子音が長くなることもある)。動画22の男性の“tooth”や“dinner”など。
  • (6) 強+弱(弱…)と音節が続く場合、弱音節の方がピッチが高くなったり、ピッチが動くため、強音節より弱音節の方が強く聞こえる。このようなパターンが続くため、「歌うように話す」という印象になると考えられています。

3. 語彙・表現

語彙・表現の面でも、基本的にはイングランドの英語がベースになっています。つづり字もイギリス英語式で、 アメリカ英語では“center”ですが、ウェールズ英語はイギリス英語と同様に “centre”とつづります。また、“favour”もイギリス英語と同じです(アメリカ式は“favor”)。しかし、語彙・表現の面でも標準的なイングランドの英語とは異なる点は観察されます。特にわかりやすいのは、ウェールズ語の地名などの固有名詞が出てきたり、ウェールズ語の単語をそのまま借用している場合です。そういった単語のつづり字はウェールズ語の規則に則っていますので、普段見慣れている英語のつづり字とはちがっていて、違和感を覚えるかもしれません。以下に、ウェールズ語由来の語彙を含めて、ウェールズ英語でみられる特徴的な語彙や表現をいくつか挙げます。

  • (1) ウェールズ語由来の単語

    動画4ではウェールズ語由来の単語や地名がいくつか出てきます。 “eisteddfod”は詩や音楽など複数の部門からなる大会のことです。ウェールズ語では、 “dd”は/ð/(= “they”の”th”と同じ発音)、“f”は/v/で発音するので、「アイステズボッド」のように発音されます。

    “Llyn Peninsula”や “Pwllheli”はウェールズ語由来の地名で、それぞれ日本語では「リーン半島」、「プスヘリ」です。これらの単語に見られる“ll”というつづり字は、ウェールズ語の無声のlの発音を表します。英語の/l/と同じように舌先を歯茎にくっつけますが、声帯振動が起こらない発音になります。英語では、 “doll”などのように語末に“ll”が使われて、「ウ/オ」の音色を伴って発音されますが、ウェールズ語・ウェールズ英語では語頭にも出てきて、発音も異なります。

    Clwb Ifor Bachは固有名詞で「クラブ・イヴォール・バッハ」です。 英“club”がウェールズ語式に“clwb”と表記されています。 ウェールズ語では「クルブ」と「ウ」に近い発音になります。“Ifor”の“f”は先に書いたように、/v/で発音します(“Cardiff”のように“ff”とつづる場合は、/f/で発音されます)。また、“Bach”の“ch”は無声軟口蓋摩擦音[x]で、口の奥の方で「ハ」と発音する音です。英語では “church”のように “ch”はチャ行に近い発音になりますが、ウェールズ語由来の語のため、発音が異なります。

  • (2) “Ta.”は “Thank you.”の意味で使われます。動画3などいくつかの動画で使われています。
  • (3) “Ta ra.”はウェールズでは非常に頻繁に使われる挨拶表現で、“See you.”の意味です。動画21や動画22などいくつかの動画で見られます。
  • (4) “reckon”は「考える」という意味で、意味としては標準英語とちがいがあるわけではありませんが、ウェールズではこの単語が多用される傾向があります。通常”I think ….”というところを、ウェールズでは“I reckon ….”が使われます。
  • (5) “cracking”、“lush”、“tidy”が“brilliant”や“great”、“nice”などの意味で使われます。いくつかのスキットで使われていますが、例えば動画9、17、37を参照してください。
  • (6) 文末でSVを繰り返すことがあり、“I feel terrible, I do.”や“It’s been a while, it has.”のような表現が頻繁に使われます。多くのスキットで似たような表現が見られますが、ここに挙げた例は動画23と動画26で出てくるものです。

「1.挨拶する」から「20.人を紹介する」は、ウェールズ特有の語彙や語法を多く含む会話です。これに対して「21.感謝する」以下の会話は、基本的には他の英語会話モジュールと同じスクリプトで、部分的に語彙や表現をウェールズ英語のものに変えています。

「教室用」ページでは4つの画面パターンを用意しました。

パターン1: それぞれの台詞を聞いて覚えるのに便利です。
パターン2: 台詞を見ながら聞いて書きとるのに便利です。
パターン3: 会話全体を聞いて覚えるのに便利です。
パターン4: 役割練習などを行うのに便利です。
担当する方は画面を自由に組み合わせて授業を行うことができます。

上のメニューから項目を選んでください。

このページは科学研究費助成事業18H00695『多様な英語への対応力を育成するウェブ教材を活用した教育手法の研究』 (研究代表者:矢頭典枝(神田外語大学),研究分担者:川口裕司(東京外国語大学),斎藤弘子(東京外国語大学),吉冨朝子(東京外国語大学),梅野毅(東京外国語大学),関屋康(神田外語大学),小中原麻友(神田外語大学))による研究の一環として公開しています。

  • 研究協力者:新城真里奈(明治大学)、木村公彦、Bethan Kushida(神田外語大学)、黒岩健人(FRAME00株式会社)
  • 出演者:Jo Mynard、Simon Bannister、Mike Kettle(神田外語大学)