東京外国語大学言語モジュール

Scottish English

スコットランド英語

人口約6,700万人の英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)の一地域であるスコットランドは、人口約550万人で英国の総人口の約8%を占めています(2020年統計)。スコットランドで話される英語は地域差が大きく、都市部の教育を受けた人々を中心にいわゆる「標準スコットランド英語(Scottish Standard English) 」が話されていますが、地方ではスコットランド特有のスコッツ語(Scots)の影響を受けた英語も話されています。本モジュールでは、地域差と個人差があるものの「標準スコットランド英語」を「スコットランド英語」として扱います。

語彙に関しては、生活用語はロンドンを中心とするイングランドの英語と同じ語彙が多く使われます。例えば、「クッキー」biscuits(会話21)、「フライドポテト」chips(会話27)、「ガソリン」petrol(会話29)などです。スコットランド固有の語や表現もあります。例えば、ayeがyes、lassがgirl(会話1)、weeがsmall、yellyがyellow(会話2)、anawがtoo(会話13)の意味で使われます。独特な言い回しとして、会話3のwannae (want to)やNae bother (No problem)、会話6のthe day (today)やno bad (not bad)、会話7のcannae (can’t)、会話9のdinnae (don’t)、会話11のthe morra (tomorrow)など多数あります。

発音に関しては、スコットランド英語は、アイルランド英語と同様に、北アメリカの英語に類似した特徴があります。スコットランド英語とアイルランド英語はアメリカ英語とカナダ英語と同様に、carやcartといった語で、母音のあとの/r/を発音するR音性的な(rhoticあるいはr-ful)英語です。それに対して、標準イギリス英語(イングランドの標準的な発音)、オーストラリア英語、ニュージーランド英語は、上記の語で、母音のあとの/r/を発音しない非R音性的な(non-rhoticあるいはr-less)英語です。ただ、スコットランド英語の母音のあとの/r/は、以下(1)で解説するように、人によって表れ方が異なります。スコットランド英語の発音には主に以下の特徴があります。なお、出演している男性二人はグラスゴー出身、女性は北部のアバディーン出身です。最もスコットランド訛りが強い出演者は、会話1の赤いシャツを着た男性Bです。

  • (1)一般的に、carやcartといった語で母音のあとの/r/を発音するR音性的な英語だといわれています。アメリカ英語のような接近音[ɹ]で発音される場合が多く、例えば、会話1の男性Aはcourseの/r/、会話2ではareとthereの/r/をそのように発音しています。また、一人の人間が接近音[ɹ]で発音したり、しなかったりすることもあります。例えば、出演している女性は、会話2ではthereの/r/を接近音[ɹ]で発音し、biggerの/r/をイングランドの標準的な発音のようにあいまい母音/ə/で発音しています。さらに、会話1の男性Bは、thereの/r/などで、あいまい母音/ə/のあとに舌根を少し喉寄りに引いて発音しています。
  • (2)語頭と語中の/r/の発音が人によって異なります。アメリカ英語のような接近音[ɹ]、またはたたき音[ɾ]で発音されるのが一般的です。教育レベルが高い人々の方が[ɹ]と発音する傾向があり、近年この発音が多く聞かれるようになっています。例えば、会話1のGreigの/r/を男性が接近音[ɹ]、男性Bがたたき音[ɾ]で発音しています。会話2の女性はHerringの/r/を接近音[ɹ]で発音しています。
  • (3)語中、語末の/t/が声門閉鎖音になることがあります。例えば、会話1の男性Aも会話14の女性もbetterの/t/ を声門閉鎖音で発音し、「ベッア」のように聞こえ、会話3では女性がSaturdayの/t/を声門閉鎖音で発音しています。
  • (4)/w/と/ʍ/を区別します。witchの最初の子音は[w]、whichは[ʍ]と発音されます。例えば、会話2の男性はwhereの“wh”、会話8でWhatの"Wh"を[ʍ]で発音しており、それぞれ「ホウェア」「フワッ(トゥ)」のように聞こえます。
  • (5)/l/は、アメリカ英語と同様に、どの位置にあっても「暗いl 」[ɫ]で発音されます。(イングランドの標準的な発音ではlateやclearなど、音節頭にある/l/は舌先を歯茎にしっかりとつける「明るいl」で発音されます。)例えば会話8の女性のlateは「暗いl」で発音されています。また、「暗いl」で発音されるmilkやallの/l/が母音化することがよくあります。例えば会話1の男性のAlrightも、会話6の男性のfallも/l/が母音化しています。
  • (6)lochの最後の子音“ch”が/x/で発音されます。例えば、会話26のloch、会話18のGlenfiddichの“ch”が口の奥の方で「ほ」を発音したような音(軟口蓋摩擦音)になっています。
  • (7)-ingで終わる語の語末の子音が脱落することがあります。例えば会話6のdoingの"ng"は"n"の発音になっています。
  • (8)out、house、aboutといった語の二重母音が単母音化します。例えば、会話1の男性Aのoutの二重母音が単母音化し、「ウートゥ」のように聞こえ、downの母音も単母音で「ドゥーン」のように聞こえます。会話4の女性もabout、around、outsideの"ou"はどれも単母音/uː/で発音しています。
  • (9)bayやfaceなどの語の二重母音が単母音化し、それぞれ「ベ」、「フェス」のように発音されます。例えば会話4では、男性がgreatの母音を単母音で発音し、「グレートゥ」のように聞こえます。
  • (10)goatやboatなどの二重母音が単母音化し、[o]と発音されます。会話1では男性Bのso-soも「ソーソー」のように聞こえます。会話21でも同じ男性のOh、no、okayの母音が単母音化しており、それぞれ「オッ」、「ノー」、「オーケー」のように聞こえます。
  • (11)/æ/と/ɑ:/ を区別しません。badとaskの母音はイングランドの標準的な発音ではそれぞれ/æ/と/ɑ:/で発音されますが、スコットランド英語では口を広く開けて日本語の「あ」に近い音で発音されます。例えば、会話14の女性のcat’sは「カーッツ」に聞こえ、会話13の男性Aのbathsの母音は[a]と発音されています。
  • (12)priceやbiteなどの二重母音が[əi]、[ɛi]と発音されることがあります。例えば会話11で男性Bがspicyを「スペイシー」のように発音しています。
  • (13)do、toの母音が[e]と発音されることがあります。例えば、会話6の男性のdoingとtoの"o"は「え」に近い発音になっています。
  • (14)fern, bird, hurtなどの語の母音は、米英語とイングランドの標準的な発音では同じに発音されますが、スコットランド英語では“r”の前に母音が入り、それぞれ異なる発音になることがあります。例えば、赤いシャツの男性は、会話15でearlyの"ear"の部分、会話40でcertainlyの"er"の部分を[ɛə]のように発音し、会話13ではThursdayの"r"の前に[ʌ]と発音しています。

「1.挨拶する」から「20.人を紹介する」は、スコットランド特有の語彙や語法を多く含む会話です。これに対して「21.感謝する」以下の会話は、基本的には他の英語会話モジュールと同じスクリプトで、部分的に語彙や表現をスコットランド英語のものに変えています。

「教室用」ページでは4つの画面パターンを用意しました。

パターン1: それぞれの台詞を聞いて覚えるのに便利です。
パターン2: 台詞を見ながら聞いて書きとるのに便利です。
パターン3: 会話全体を聞いて覚えるのに便利です。
パターン4: 役割練習などを行うのに便利です。
担当する方は画面を自由に組み合わせて授業を行うことができます。

上のメニューから項目を選んでください。

このページは科学研究費助成事業18H00695『多様な英語への対応力を育成するウェブ教材を活用した教育手法の研究』 (研究代表者:矢頭典枝(神田外語大学),研究分担者:川口裕司(東京外国語大学),斎藤弘子(東京外国語大学),吉冨朝子(東京外国語大学),梅野毅(東京外国語大学),関屋康(神田外語大学),小中原麻友(神田外語大学))による研究の一環として公開しています。

  • 海外協力者:Nicola Galloway(エジンバラ大学)
  • 研究協力者:Eleanor Galloway、William Oliphant、木村公彦(神田外語大学)、黒岩健人(FRAME00株式会社)
  • 出演者:Ross Sampson(神田外語大学)、Tara McIlroy(立教大学)、Matt McKeown