東京外国語大学言語モジュール

014: 格変化 (2) ― 不定冠詞と名詞の格変化 ―

 不定冠詞と定冠詞を並べた表を見てみましょう。
 
 
男性単数形
中性単数形
女性単数形
複数形(各性共通)
 1格
ein
der
 Vater
ein
das
 Kind
eine
die
Mutter
die
 Kinder
 2格
eines
des
 Vaters
eines
des
 Kind[e]s
einer
der
Mutter
der
 Kinder
 3格
einem
dem
 Vater
einem
dem
 Kind
einer
der
Mutter
den
 Kindern
 4格
einen
den
 Vater
ein
das
 Kind
eine
die
Mutter
die
 Kinder
 男性単数は1格以外で,また中性単数は1格・4格以外で,冠詞の語尾がぴったり一致していることが確認できますね。女性単数も,1格・4格は最後が-eで終わる点は同じですし,2格・3格は語尾がぴったり一致しています。
 さて,定冠詞と不定冠詞の使い分けの原則を説明しておきましょう。たとえば「本はどこ?」「本はここにあるよ」という対話の場合はどうでしょうか? 
 
(1)
„Wo ist das Buch?“ „Das Buch ist hier.“ 「本はどこ?」「本はここにあるよ。」
 この場合は,どの本のことを言っているのかがお互いにわかっていると考るのが自然ですね。つまり「どの本か」を特定できるので(1)では定冠詞が用いられているのです。では「ペーターはもうすぐ車を買うよ」という言う場合はどうでしょうか。
 
(2)
Peter kauft bald ein Auto. ペーターはもうすぐ車を買うよ。
 この場合は,聞き手が「どの車か」を思い浮かべることができないと考える方が自然ですね。つまり聞き手が「どの車か」を特定できないので(2)では不定冠詞が用いられています。同じ事柄でも,「ペーターはもうすぐ(あなたも知っているあの)車を買うよ」というのならば定冠詞になります。
 
(3)
Peter kauft bald das Auto. ペーターはもうすぐ(あの)車を買うよ。
 このように,定冠詞を用いるか,不定冠詞を用いるかは話し手の想定によって決まります。つまり,聞き手が「どの○○か」を特定できると想定するときは定冠詞を用い,聞き手が「どの○○か」を特定できない想定するときは不定冠詞を用いるのが原則です。
 さて,不定冠詞は単数形しかないのですが,「不定冠詞+名詞」を複数形にしたらどうなるのでしょうか。「ペーターは今日本を買う」という文を見てみましょう。
 
(4)
Peter kauft heute ein Buch. ペーターは今日(ある1冊の)本を買う。
 
(5)
Peter kauft heute Bücher. ペーターは今日(何冊かの)本を買う。
 本が1冊ならば(4)のように不定冠詞を用いますが,何冊かを買う場合は(5)のように冠詞を付けません。もちろん,数冊の本でも「どの本か」を聞き手が特定できると想定すれば定冠詞になります。
 
(6)
Peter kauft heute die Bücher. ペーターは今日(あの数冊の)本を買う。