東京外国語大学言語モジュール

対格の用法:「AはBだ」と対格

 「kaan-a と姉妹語」や「ʔinna と姉妹語」などには<主語(主格)+述語(主格)>,つまり「AはBだ」の文型の要素を対格にする機能があります。
 アラビア語学で النواسخ an-nawaasix と呼ばれるこの文法カテゴリーには,その機能から以下の三つに分類されています。
① kaan-a と姉妹語
< kaan-a
+ A (主格) + B (対格) >
② ʔinna と姉妹語
< ʔinna
+ A (対格) + B (主格) >
③ Zanna と姉妹語
< Zann-a
+ A (対格) + B (対格) >
 
1. <kaan-a+A(主格)+B(対格)>
 kaan-a 「~である」に代表される lays-a 「~じゃない」,ʔaSbaħ 「~になる」,maa zaal-a 「まだ~だ」など「kaan-a と姉妹語」と呼ばれる動詞は,「AはBだ」の述語Bを対格にします

kaan-a  al-jaww(-u) mumTir(-un) 「天気は雨だ」

كان الجوّ ممطراً.‏‎‏
(天気は雨でした。)
[kaan-a l-jaww(-u) mumTir-an]
(会話モジュール23「条件をつける」)
 
 詳しい例文は,「kaan-a と姉妹語」の各Stepを参照してください。
 
2. <ʔinna+A(対格)+B(主格)>
 
ʔinna を代表とする ʔanna 「~と,~ということ」,laakinna 「しかし」,li-ʔanna 「なぜなら,~から」など「ʔinna と姉妹語」と呼ばれる接続詞は,「AはBだ」の主語Aを対格にします

ʔanna  waqt-u-ki Dayyiq(-un) 「貴女の時間はきびしい」

أنا أعرف أنّ وقتك ضيّق.‏
(キミに時間がないのは知ってるよ。)
[ʔanaa ʔa-ʕrif(-u) ʔanna waqt-a-ki Dayyiq(-un)]
【語句】 ʕaraf-a (ya-ʕrif) 「知る,わかる」  Dayyiq 「狭い」
(会話モジュール27「依頼する」)
 
 詳しい例文は,「ʔinna と姉妹語」の各Stepを参照してください。
 
3. <Zann-a+A(対格)+B(対格)>
 Zann-a 「思う」を代表とする raʔaa 「見る」,wajad-a 「見つける」,iʕtabar-a 「見なす」など「Zanna と姉妹語」と呼ばれる動詞は,「AはBだ」の主語Aと述語Bの両方を目的語の対格とし,「AはBであると思う」「AがBであるのを見る」という意味で使います。

wajad-a hiya maktuub(-un) fi d-daftar(-i) 「それはノートに書いてある」

ما هي كلمة سرّ؟ ... ستجدها مكتوبة في هذا الدفتر.‏
(パスワードは何ですか。…貴男はそれがそのノートに書いてあるのを見るでしょう。)
[maa hiya kalimat(-u) sirr(-in) … sa-ta-jid-u-haa maktuuba(t-an) fii haaða d-daftar(-i)]
【語句】 wajad-a (ya-jid) 「見つける」
(会話モジュール21「順序について述べる」)
 
この例文では,kalimat sirr(-in) 「パスワード」(上の例では接尾代名詞-haa)と maktuub 「書いてある」の両方が ta-jid 「貴男は見つける」の目的語となっています。
 jaʕal-a 「AをBにする」,tarak-a 「残す」などの動詞は,「AはBだ」の主語Aと述語Bの両方を目的語とし,「AをBにする」「AをBにしておく」という意味で使うことができます。

tarak-a Dawʔ-u l-ġurfa(t-i) maftuuħ(-un) 「部屋の電気がつけてある」

لا تترك ضوء الغرفة مفتوحاً.‏
((男性に)部屋の電気をつけっぱなしにするな。)
[laa ta-truk Dawʔ-a l-ġurfa(t-a) maftuuħ-an]
【語句】 tarak-a (ya-truk) 「残す」
(会話モジュール34「しないでくれと言う」)