東京外国語大学言語モジュール

9.1. 有声化

 有声化は「8.4. 動詞一つからなる文の発音練習」で少し触れましたが、直前の音節に影響されて、直後の音節の無声頭子音が有声のものに変わる現象です。日本語で「田(た)」が複合語の二つ目の要素として現れるとき「棚田(たな)」となるのと同じです。(棚 tanaの最後のaに影響されて田 taの頭子音tが有声音dに変わる)

 

 ビルマ語でもある条件が揃うと二つ目(以降)の要素の無声頭子音が有声のものに変化します。有声化するのは4.1で取り上げた阻害音のみです。同じ調音位置、調音方法の有声音になります。

 

 両唇音   唇歯音  歯茎音  後部歯茎音   軟口蓋音 
pʰ-, p- t̪-  tʰ-, t-   sʰ-, s-  cʰ-, c- kʰ-, k-
b- d̪- d- z- j- ɡ-

 

 

 有声化を引き起こす環境は、直前の音節が促音節以外の場合です。促音節以外の音節の直後に無声阻害音が続くとき、有声阻害音に変化します。

 

 ただし何でもかんでも有声化するのではありません。基本的に付属語の類は有声化します。自立語の場合、有声化するケースとしないケースがあります。外来語の場合は有声化しません。

 

 8.4で学習した動詞文標識-tɛ̀~-dɛ̀や-pʰú~-búは促音節の直後では無声音、それ以外では有声音となっていることがわかるでしょう。

ပြောသူ [pyɔ́-d̪ù ]話す人、発言者< pyɔ́-〈ပြော〉「話す」+t̪ù〈သူ〉「人」
ရန်သူ [yàɴ-d̪ù ]敵<yàɴ〈ရန်〉「争い」+t̪ù〈သူ〉「人」
လုပ်သူ [louʔ-t̪ù ]行う人、行為者<louʔ〈လုပ်〉「行う」+t̪ù〈သူ〉「人」

 なお、有声化ではなく無声化(日本語でいうとベッドbeddo→ベットbettoやあしたashitaなど)もあると考えられますが、規則的に起きるわけではありませんので、ここでは省略します。

 また以下に挙げるような形態論レベルで生じていると考えられる有声化については、ここでは割愛します。

・名詞化に関わる有声化

 cʰeiʔ〈ချိတ်〉「引っかける」> jeiʔ〈ချိတ်〉「フック」

・軽音節の頭子音が続く頭子音に影響されて有声化するもの

 d̪ăbìɴ〈သဘင်〉「祭り」

 dă-bú〈တစ်ဘူး〉「1缶」> tiʔ〈တစ်〉「1」+ bú〈ဘူး〉「缶」

 ză-bìɴ〈ဆံပင်〉「髪の毛」> sʰàɴ〈ဆံ〉「1」+ (ʔă)pìɴ〈(အ)ပင်〉「生えているもの;木、草」

・元々、別の音節が前に付いていたものが、その音節が脱落して、有声化したものが残ったと考えられるもの

 ɡáuɴ〈ခေါင်း〉「頭」> ʔúɡáuɴ〈ဦးခေါင်း〉「頭」 ※第2音節は綴り字通りならkʰáuɴ